最高裁判所第一小法廷 平成6年(あ)129号 決定 1994年4月04日
本店所在地
大阪市中央区船場中央三丁目一番七-二一七号
株式会社
マツバヤ
右代表者代表取締役
木田茂
右の者に対する法人税法違反被告事件について、平成五年一二月七日大阪高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人家郷誠之の上告趣意は、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 大白勝 裁判官 大堀誠一 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好達 裁判官 高橋久子)
平成六年(あ)第一二九号
○上告趣意書
被告人 株式会社マツバヤ
右の者に対する法人税法違反被告事件について、上告の趣意は、左記のとおりである。
平成六年三月八日
右弁護人 家郷誠之
最高裁判所第一小法廷 御中
一、法人税納付の事実
1.被告人会社の代表者木田茂は、本件ほ脱にかかる、いわゆるB勘定とした土地代金の全部を株式のマージン取引につぎこんだところ、平成元年一月からの株式の大暴落によって、その全部を失った。
もとより自業自得のところであるが、このため被告人会社は法人税及び付帯追加税の納付資金が不足した。しかし被告人会社は次の不動産を所有している(弁甲第二号証)。
(一)船場センタービル七号館一階 一二二号
(昭和四五年三月取得)
(二)船場センタービル七号館一階 一一五号
(昭和四八年六月取得)
(三)船場センタービル七号館地下一階 五二八号
(昭和六三年三月取得)
(四)岐阜市茜部中島所在のファミリーレストラン夢幻亭の土地・建物
(昭和六三年八月取得)
(一)、(二)は取得時期が古く、取得価格は低いが、いずれも一階であって時価は各三億円を下らない。尚(二)は登記簿上は被告人会社代表者木田茂の所有である。
(三)の取得価格は帳簿上六億二七八四万一三二一円であるが、売主の要求により一億円圧縮しており、実際の取得価格は七億二七八四万一三二一円である。
(四)の土地取得価格は三億四〇二四万九八六円であり、建物の建築に約三億五〇〇〇万円を投じており(四)の時価は土地を含めて八億五千万円である。
被告人会社は以上のとおり時価合計二〇億五千万円以上の不動産を有している。
他方、抵当権の設定された債務は(一)、(二)の物件について、二億五千万円、(三)について、三億六千万円、(四)について四億五千万円であり、差引約一〇億円の余剰価値がある。
2.そこで被告人会社は営業継続に不可欠の(一)、(三)を除いた(二)、(四)の不動産を売却して、納税する意思であるが、現下の厳しい不動産状勢のもとでは不可能なので、大阪国税局徴収部に分割納付方を申し出、次のとおり先付け小切手をもって法人税本税四億三一五五万七五〇〇円、加算税一億五一〇二万二五〇〇円、延滞税二三九九万九五〇〇円、及び消費税本税二九五万七一〇〇円、延滞税四六万三四〇〇円、合計六億一〇〇〇万円を分割納付した(弁甲第五号証)被告人会社はこれを完納するであろうことは前記の資産状況から明らかである。
二、夢幻亭への経費支出の事実
1.被告人会社の本来の業種は婦人服卸業であるが、昭和六三年八月からは岐阜市内にファミリーレストラン夢幻亭を開店して、飲食業の業務も行って今日に至っている。
しかして、被告人会社は右飲食店の開店に当り、昭和六三年三月一日から平成元年二月二八日までの事業年度において、被告人会社の帳簿に計上されていない次の出捐を行なった。
<1> 四〇〇〇万円 トンコツラーメンのダシの粉末とそのノウハウ代金
<2> 四〇〇万円乃至八〇〇万円 夢幻亭の基礎部分の設計料
<3> 四〇〇万円 夢幻亭第二駐車場造成工事代金
<4> 一五〇万円 開業パーティー費用
<5> 五〇万円乃至六〇万円 開業から十日間行なった五円セール期間中のガードマン警備料
<6> 三〇〇〇万円乃至四〇〇〇万円 開業日までに支払った従業員(一〇名)に対する空給料
<7> 五〇万円 岐阜新聞社主催花火大会打上げ花火代
<8> 二〇〇〇万円 夢幻亭店員募集費、その他の広告費等
以上合計 一億五〇万円乃至一億一四六〇万円
2.被告人会社代表者木田茂は昭和六〇年に脳血栓で一度倒れ、昭和六二年七月一四日脳内出血で意識を失って日本橋病院に運ばれ同病院に同年八月二七日まで入院し以後今日に至るまで、同病院に通院して投薬等の治療を受けているものであり、夢幻亭開店の当時被告人会社の同業者らは右の如き病みあがりの同人が大金を投じて行うレストラン業は失敗する等と噂したりしていたので木田茂はこれに反発して、できるだけ経費のうち後日問題にされかねない分については木田茂個人が出捐した形をとって、被告人会社の帳簿に記載しなかった。
しかし右支出はその性質上被告人会社の経費とみるべきものであること明らかである。
3.被告人会社は公判開始後に右の如き経費支出の主張をはじめたものではなく、被告人会社代表取締役木田茂は平成四年一〇月一六日付検察官に対する供述調書(検察官請求番号一三五)においてこれを主張している。各支出項目はレストラン開店にあたって当然に必要と考えられる合理的支出である。領収証が提出されていないという理由のみによって、これを認めない控訴審判決の事実認定は不当である。
三、B勘屋への支出
1.被告人会社は本件不動産取引に関し、いわゆるB勘屋として共犯者太田幹夫が営む延喜堂有限会社を実際の売買契約当事者間に介在させ、あたかも同会社が正規の契約当事者であるかのように装い、同会社と被告人会社との間で売買代金一七億七七五万円とした虚偽の不動産売買契約書を作成し太田幹夫らに対し手数料乃至謝礼として金八六、五〇〇、〇〇〇円を支払った。
2.法人税法はその二二条一項において、「内国法人の各事業年度の所得の金額は当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」と規定し、更に同条三項において「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き次に揚げる額とする。
<1> 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
<2> 前号に掲げるものの他、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く)の額
<3> 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」
と規定するのみであって右にいう損金の意義については、定義的規定ないし一般的規定を設けることなく、個々の事項につき、同法二三条以下において、ある事項については損金に算入し、ある事項については損金に算入しない旨規定しているにすぎない。よって前記手数料乃至謝礼は違法支出であるが、法人の所得計算上、これを損金の額に算入することができるか否かは法解釈としては争いのあるところである。
弁護人は勿論前記違法支出を損金に算入しないことを非難するものではない。しかし、被告人会社が発案企画、実行したのではなく、報酬を目的とした悪質地上げ屋及びB勘屋らの「絶対バレないようにする」との甘言に乗せられた結果行った犯行である本件の如き事案において、少なくとも量刑にあたっては右の事実も斟酌されるべきと思料する。
四、以上の事実即ち被告人会社は本来の税額及び付帯追加税のほぼ全額を分割納付していること、損金的支出として前記二、三記載のとおり合計一億八七〇〇万円乃至二億一一〇万円を支出している事情からすれば控訴審判決の量刑は「甚だしい不当」があるといわねばならない。
よって刑訴法四一一条の職権発動を求め本件上告に及んだものである。